オシム氏、W杯を語る(上)~日本はアジアの手本に

ロシアで初めて行われるW杯は、世界に何をもたらすのか。開幕にあたり、元日本代表監督のイビチャ・オシム氏(77)に今大会の見所と日本代表への期待を語ってもらった。※6月15日付紙面の記事です

イビチャ・オシム氏

W杯の時だけ「勝て勝て」では勝てない

世界のサッカーは日々変化している。その歩幅が大きくなることがある。それがW杯の舞台だ。新しい戦術やスターが生まれ、向こう4年間の世界のサッカーの大まかな方向性が示されるのが、W杯だ。

優勝候補の予想はしないことにしている。一般的にはブラジル、ドイツ、スペイン、フランス、アルゼンチンといった優勝経験国に注目が集まっている。しかし、個人的にはそれ以外のフレッシュな勢力の台頭を期待している。

例えば、ポルトガルやベルギーだ。サプライズを起こす実力は持っている。特にポルトガルは、2年前の欧州選手権で優勝している。ベテランと呼んで差し支えない年齢に達したロナルドにとっても、ラストチャンスだろう。これまで隣国のオランダの活躍をうらやんできたベルギーにも注目したい。チョコやビール以外にサッカーもあると示してもらいたい。

これらの国々は、いわゆる経済大国ではない。人口は約1000万人で、日本の10分の1ほどだ。しかし、サッカーは11人対11人でやるものだ。「勝って当たり前」の優勝候補常連を打ち破り、花を咲かせてほしい。

小さな国が国際舞台で活躍できるのはスポーツのいいところだ。欧州や南米では日常生活にサッカーが根づいていて、月曜日は職場や学校でも市場でも、土日の試合結果が話題になる。日本はまだそこまでいっていないし、サッカーの社会的地位は高いとは言えない。W杯の時だけ「勝て勝て」というのでは勝てないのだ。

日本代表へ「前の夜によく眠りなさい」

今回は特に、日本を含むアジア勢の健闘を期待したい。

アジア諸国は(2002年日韓大会を除き)、1966年イングランド大会でイタリアを破り、8強に進出した北朝鮮以来、何も成し遂げていない。アジアはサッカーの未来の「開拓地」だ。中国とインドといった潜在的超大国が力をつければ、世界のサッカー界の構図全体が変化する。

国際サッカー連盟(FIFA)がW杯の参加枠を拡大しようというのも、それを意識してのことだろう。W杯拡大についてはさまざまな議論があるが、決まったからには、どうすれば全体のレベルを――つまりインドと中国のレベルということでもある――上げるか考えるべきだ。

日本はそれらのお手本になってほしい。W杯予選を突破した監督を大会2か月前に解任したことは非常に驚いた。監督解任はよくあることだが、このタイミングでの監督交代は、よほどのことがあったのだろうと推測するしかない。選手は自分たちの力を信じ、知恵を絞り、結束して大会に臨んでほしい。本番では、相手を怖がらず、冷静にプレーできるよう、前の夜によく眠っておくことだ。

今回のW杯からビデオ判定(VAR=Video Assistant Referee)が導入される。審判の判定に信頼性が増し、選手が安心してプレーできるようになるなら、テクノロジーは活用すべきだ。試合の流れを止めずにスムーズに使いこなせればいいが。

サッカーは世界で最も注目を集めるスポーツだ。それゆえに、W杯は平和に役立つものであってほしい。そもそも平和でなければスポーツはできない。

W杯は国と国の対抗戦だが、試合後は両方の選手・サポーターが仲良くなれるように願いたい。「いい試合でしたね」と喜び合える、充実した試合内容になることを望む。(通訳・千田善氏)

イビチャ・オシム

ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ出身。旧ユーゴスラビア代表として1964年の東京五輪に出場し、準々決勝敗退。86年、旧ユーゴ代表監督となり、90年W杯で8強入り。2003年にJリーグの市原(現千葉)監督、06年に日本代表監督に就任。07年に脳梗塞(こうそく)で倒れ、代表監督を辞任した。母国では、サッカー協会に民族ごとに3人の会長がいた状況の改善に尽力。会長を一本化させ、14年W杯での初出場につなげた。

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