【リポート】大会初のスコアレスドロー~蘇った36年前の記憶~

1か月に及ぶワールドカップ(W杯)の熱闘が続いている。強豪国や注目国の試合ぶりを、海外サッカーの豊富な取材経験を持つライターの石川聡さんが現地からリポートする。

6月26日 グループC組

デンマーク0-0 フランス

デンマーク 対 フランス 試合データ・結果はこちら

C組最終戦のデンマーク対フランスは今大会初の0-0の引き分けとなった。

試合が進むにつれて、36年前に目にしたある試合の記憶がよみがえってきた。初めてワールドカップ(W杯)を取材した1982年のスペイン大会だ。当時の西ドイツ、オーストリア、チリ、そして初出場のアルジェリアが争ったグループリーグの組で、スキャンダラスな出来事があった。

それまでW杯で2度優勝していた西ドイツを初戦で破るなど、センセーショナルな活躍を見せたアルジェリアが、チリも破って2勝1敗の勝ち点4で終了(当時は勝利が勝ち点2)。翌日は勝ち点4のオーストリアと同2の西ドイツが対戦し、西ドイツが勝てばオーストリアとともに勝ち点4となり、得失点差でアルジェリアを上回って2次リーグ進出が決定する。だが、3-0など大差で勝ってしまうと、総得点でアルジェリアを上回れないオーストリアが敗退してしまう。

西ドイツとオーストリアは隣り合うドイツ語圏の国。アルジェリアの試合が終了した時点で半ば予想されていたことだが、試合は前半早々にドイツが先制すると、その後は両者とも得点への意欲が感じられず、時間だけが経過して結局、西ドイツが1-0で勝利。両者はめでたく2次リーグへ進出した。

「真剣勝負のはずのW杯でこんなこともあるのか」と、素晴らしい攻撃サッカーを見せてくれたアルジェリアに同情を禁じえなかった。当時勤務していたサッカー専門誌は、「金で魂を売ったのか」と言わんばかりに模造札束を掲げて抗議の意思を示すファンの写真を掲載した。国際サッカー連盟(FIFA)も問題視し、次のメキシコ大会から、各組のグループリーグ最終戦2試合を、同日同時刻開始に改めた。

フランスの俊才・エムバペ(中央)を2人がかりで止めにいくデンマークの選手たち

ロシア大会のデンマーク対フランスは、引き分ければ仲良く決勝トーナメント進出となる状況で迎えた。試合が始まると、デンマークが守りを固め、フランスがパスをつないで突破口を探る展開。「まずは16強に入るのが目標」というデンマークのハレイデ監督は「フランスのようなカウンターが得意なチームにスペースを与えるのは愚かなこと」と、水も漏らさぬ布陣とした。4人のDFに加え、普段はセンターバックでプレーすることが多いDFクリステンセンをその前方に配して万全を期した。

少なくとも目標は達成したのだから、指揮官の策は当たったということだろう。「勝つためには前線からプレスをかけたり、深く引いて守ったりの使い分けも必要」とハレイデ監督。デンマークは柔軟な戦いができることを示したといえる。

このような相手を前に、フランスの攻撃のペースも上がらなかった。だが「(当面の)目標はこの組の1位になって16強入り」(MFカンテ)と、こちらもノルマを達成。「競争力のあるチームをつくること」を目指すデシャン監督にとって、先発4人をはじめ5人を今大会で初めて起用できたのも、今後に向けた収穫の一つに違いない。

結果で言えば、突破の可能性があったオーストラリアが敗れ、デンマークは負けても2位は確保できた。中堅国にとってグループリーグ突破は成否の分かれ目。試合内容はサッカーの祭典にふさわしくはなかったかもしれない。だが、これも国民の期待を背負って戦うチームの懸命な姿なのだろう。

プロフィル  石川 聡

いしかわ・あきら 1956年生まれ。大学卒業後にサッカー専門誌編集部で海外サッカーを担当。その後、トヨタカップ、日本代表戦などの大会プログラム編集、執筆に携わる。W杯は1982年スペイン大会から続けて取材し、今回が10回目。過去のリポートはこちら

<<
ニュース一覧へ戻る
>>