ワールドカップ狂騒曲(11)ゴール判定 イングランド44年の因縁

語り継がれる勝負やゴールは数え切れない。トラブルや判定論争も、たびたび世を騒がせてきた。サッカーの祭典・ワールドカップ(W杯)の歴史を、エピソードで振り返る。(読売新聞メディア局編集部・込山駿)

GLT活用今大会の川島セーブにも

ポーランド戦で、ゴールライン上のボールをかき出し、失点を防いだ日本のGK川島

日本代表のロシア大会グループリーグH組第3戦。ゴールキーパー(GK)の川島永嗣が32分、必死のセーブを見せた。ポーランドの選手が放ったヘディングシュートに飛びつき、右手一本でボールをかき出す。この直後、スタジアムの大画面とテレビ中継に、ゴールを真上からとらえた鮮明な解析画像が映し出された。

ボールは、ゴールライン上まで達していたが、完全に越えてはいなかった。ルールにのっとり、画面上に「NO GOAL」の文字が浮かび上がる。得点をめぐる微妙な場面の判定に用いられる「ゴールライン・テクノロジー(GLT)」が、日本戦で活用されたシーンだ。

W杯でのGLTは、4年前のブラジル大会に続き、今大会が導入2大会目にあたる。国際サッカー連盟(FIFA)は、ドイツの会社が開発したシステムを採用している。スタジアムの屋根などに複数のハイスピードカメラを設置し、両ゴールを様々な角度から撮影、ゴール周りに入ってきたボールの位置を数ミリ単位で立体的に把握する。ゴールと判定されると、審判が身につけている受信機が文字と振動で通知するとともに、スタジアムの画面とテレビを通じて観客にも映像を見せる。

システム導入のきっかけは、44年の時をまたいでサッカーの母国・イングランドが生み出した二つの「ゴール」にある。

優勝ゴールの誤審疑惑~1966年

1966年のW杯決勝で、論争を呼んだイングランドの得点。ハーストが放ったシュートはバーに当たって真下へ落ちた(AP)

1966年イングランド大会。競技の「聖地」とされるウェンブリー競技場で7月30日に行われた決勝で、イングランドは西ドイツを迎え撃った。2-2で、勝負は延長にもつれ込んだ。

決勝ゴールの映像を、FIFAは大会公式サイトにアップしている。そのモノクロ動画を見ると、イングランドのハーストが101分、右サイドからのクロスをゴール前で受けた。この試合のチーム1点目も決めていたエースは、右足で鋭いシュートを放つ。相手GKは反応できず、シュートはクロスバーの下側をたたき、ほぼ真下でバウンドした。

直後、西ドイツの選手がボールをヘディングでピッチ外へはじき出したが、線審(当時の呼称。現在は副審)はシュートがいったんゴールラインを越えていたと判定。イングランドの得点が認められた。西ドイツ側の猛抗議は実らず、試合後はゴールか否かの大論争が巻き起こった。W杯などの国際大会で両チームが対戦するたびに「1966年の因縁」を蒸し返すのが、今に至るまでサッカー関連メディアの世界的な「お約束」になっている。

ちなみにハーストは、終了間際にもう一度ネットを揺らし、W杯決勝でのハットトリック(1試合3得点)という偉業で、母国の初優勝に花を添えた。

ランパード弾に「ノーゴール」の誤審~2010年

2010年のW杯で、イングランドのランパードがドイツ戦で放った「幻の同点ゴール」の連続写真(AP)

そして、2010年のW杯南アフリカ大会。イングランド大会から11大会、44年の歳月が流れていた。6月27日、ブルームフォンテーンでの決勝トーナメント1回戦で、イングランドとドイツが対決した。

ドイツが2点を先行した試合は、37分にイングランドが1点を返し、にわかに反撃の機運を高めた。そのわずか1分後のことだ。イングランドのランパードが、相手陣内でこぼれ球を拾った。中盤の名選手が放った強烈なミドルシュートは、あの時と同じようにドイツGKの頭上を通過、クロスバーの下部を直撃して下の地面をたたいた。

ただし、1966年当時とは、画像撮影の技術と精度が全く違った。ゴール上方からのカメラ映像で、ボールがゴールラインを1メートル近く越えていたことが、はっきり判明。イングランド側もゴールを確信し、ベンチは沸き返っていた。ところが、ウルグアイ人の副審はゴールラインから遠い位置にいて判定できず、ゴールと認定しなかった。

同点劇が幻となったイングランドは、勢いをそがれた。試合は後半、ドイツが逆襲から得点を重ね、4-1で因縁の相手を粉砕。イングランドのカペロ監督は試合後、「2-2なら試合展開は変わっていた。あの試合で最も重要な瞬間だった」と嘆いた。副審は母国メディアの取材に、誤審だったと認めたうえで「ボールの動きが速すぎて見えず、運が悪かった。長いこと準備したが、こういうことが起こった」などとコメントしている。

FIFAも誤審を認め、ブラッター会長(当時)が対応策をとることを約束した。ボールに集積回路(IC)チップを埋め込むなど複数の方式を検討した末、2014年のブラジル大会までに導入を決定したのが、現在のGLTだ。カメラの設置などには当時、1会場あたり約2800万~4200万円(ブラジル大会は12会場で行われた)の導入費がかかるとされたが、W杯での2度にわたるトラブルを経て、判定の精度向上は不可避になっていた。

進む判定ハイテク化今大会はVAR

人間が判定してこそサッカーだ――。そんな主張が長く支配的だった聖域に、GLTは風穴をあけた。そして今年のロシア大会では、判定ハイテク化の、さらなる一歩が踏み出された。得点や警告・退場に絡む場面での誤審を防ぐために映像を使ってプレーを検証する判定補助システム「ビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)」の導入だ。PKの判定が覆されたり、ブラジルのスター選手・ネイマールの大げさな反則アピールが白日の下にさらされたりと、VARはすでに大きな影響を及ぼしている。

ロシア大会も、決勝と3位決定戦の2試合を残すのみ。因縁のイングランドは準決勝で延長の末に涙をのみ、ベルギーとの3位決定戦に回った。フランス-クロアチアの顔合わせとなった決勝ともども、大詰めでGLTやVARが勝負を左右するような場面が訪れるだろうか。

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