オシム氏、W杯を語る(中)~策足りぬ強豪国

決勝トーナメントが始まり、大会が佳境に入ったのを機に、元日本代表監督のイビチャ・オシム氏(77)に感じたことを語ってもらった。※7月3日付紙面の記事です

イビチャ・オシム氏(2014年9月撮影)

あっという間にW杯も終盤戦だ。グループリーグでの窮屈な勝ち点計算から解放された選手たちが、伸び伸びとプレーしている。「こういうサッカーが見たかった」と思う好試合が続くことを期待する。

ドイツの早期敗退など番狂わせが多かった。日本に負けたコロンビアもそうだが、他にもアルゼンチン、スペイン、ポルトガルなどが格下相手に勝ち点を落とす試合が続いた。

いわゆる強豪国と、そうでない国との実力の差が縮まっているのだ。

一つには、スター選手たちの「疲労度」がある。各国の長いリーグ戦、欧州チャンピオンズリーグなどW杯直前まで日程がぎっしりで、身体的、精神的な疲労をリフレッシュできなかったのかもしれない。

格下の国が、相手の長所を発揮させない作戦を研究した成果でもある。番狂わせは1度までは許されるが、2度続くとドイツのようになる。一部選手がトルコの大統領選挙に協力して激しい批判にさらされるという、グラウンド外の政治問題もあったが、サッカーの内容は前回王者らしくないものだった。しかし、ドイツを破ったメキシコや韓国の健闘をたたえておこう。

2年前の欧州選手権でも番狂わせは起こり、アイスランドなど小国が躍進した。しかし、ドイツを含む強豪国は、有効な対策(格下国の作戦への対抗策)を立てられないままW杯に臨み、そのツケを支払わされた。

別の角度から見れば、世界のトップレベルが停滞しているとも言える。W杯で、どんな新しい戦術が登場するか楽しみにしていたが、戦術的イノベーション(革新)は今のところ見られない。

日本の賭けはすべて当たった

ポーランド戦で、ベンチ前から選手に指示を出す西野朗監督。終盤のパス回し作戦を、オシム氏は「やむをえない」と受け止めた

タイミングが遅れたが、改めて日本の決勝トーナメント進出おめでとうと申し上げる。正直、ここまでは予想していなかった。

初戦のコロンビア戦は相手のハンド、退場という偶然に助けられた。セネガル戦は、2度先行されながら2度追いつくという素晴らしい戦いぶりだった。

3戦目のポーランド戦、特に終盤のパス回しは難しい選択だっただろう。1人のファンとして、面白いサッカーが見たいという点からは不満が残る。一方、現場の経験者としてはやむをえない。「W杯は結果がすべて」だからだ。

ただ、グループリーグを突破したからといって、今回のやり方が適切だったという結論は出すべきでない。W杯直前の監督交代も大きな賭けだった。予選を突破させた監督をそう簡単に代えるものではない。大変な役割を引き受けた西野監督には苦労があったことだろう。G大阪などで実績を残し、選手をよく知っているからこそ可能だった。

日本以外にも予選突破後に代表監督を代えた国があるが、ほとんどの国がうまくいっていない。日本の場合は、監督交代からポーランド戦終盤の勝ち点計算までのいくつかの「賭け」のすべてが結果的にうまくいった。次に同じことをやろうとしても難しい。「運が良かったから勝てた」では今後の参考にはならない。

日本人選手の良い部分を生かすスタイルを目指す方向性は、間違っていない。俊敏性、走力、粘り強さ、戦闘性を生かし、組織的で規律ある試合をすれば、強豪ともかなり互角にやれることが証明された。

しかし課題は多い。特に攻撃では、相手に怖がられる若いエースが欲しい。例えば日本になぜルカク(ベルギー)やエムバペ(仏)のような足の速いFWがいないのか。5年先、10年先の未来を見越した育成が、うまくいっていないということだ。この話を始めると長くなるので、また別の機会に譲る。残りわずかになったW杯を存分に楽しみ、世界から学んでほしい。(通訳・千田善氏)

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