井手口の挑戦(下)~W杯に立ち向かう覚悟

2017年8月、W杯アジア最終予選の豪州戦でゴールを決め、喜ぶ井手口

◇サッカー

高校入学後、生活が荒れた井手口陽介(21)。だが、2年に進級する直前、母亜紀子さん(50)が大病を患った。そんな時、母は言った。「病気のことは私なりにちゃんと乗り越えていく。あんたもやらなあかんことは、ちゃんとしなさいよ」。不安を口にするどころか、逆に自分の心配をする母の姿に目が覚めた。「早くプロになって安心させたい」とトレーニングに集中し、17歳の時、「飛び級」でプロ契約を結んだ。手術が成功し、健康を取り戻した母も一緒に喜んでくれた。

◆急成長

G大阪で遠藤保仁(38)、今野泰幸(35)という日本を代表する選手たちとポジションを争った。当然、初めは試合に出られなかったが、「あの2人からポジションを奪う」という思いが原動力になった。遠藤の視野の広さ、今野のボールを奪う力――。2人を見習い、挑み、乗り越えようと自分の力に変えた。

2年目の2015年シーズンにJ1初出場を果たすと、翌年はリオデジャネイロ五輪に出場し、フル代表にも初めて選ばれた。昨年8月のワールドカップ(W杯)ロシア大会のアジア最終予選、豪州戦では勝利を決定づけるゴールを決めた。周囲も驚くスピードで成長し続けた。

◆苦悩

ただ、成長には新たな課題も伴う。大活躍した豪州戦以降、苦悩の表情を見せることが増えた。主力としてプレーするうちに責任も大きくなったが、子供の時から年上にまじってプレーすることが多かった井手口にとって「自分が引っ張っていくという感覚が分からない」と悩んだ。

そんなトンネルから抜け出す契機が昨秋の日本代表の欧州遠征だった。ブラジルのエース、ネイマールら世界のトップ選手と激しく競り合った。思うようにボールを奪えず、失点につながるミスもした。「全ての面で自分に物足りなさを感じた」。強い相手に向かっていくのが本来の自分の姿であることを再確認した時、悩みは薄らいだ。

労働ビザの関係でイングランド2部リーグのリーズから、すぐにスペイン2部リーグのクルトゥラル・レオネッサに期限付き移籍。1月下旬には途中出場ながら公式戦デビューも果たした。現地でまずまずの評価を得ている。言葉も環境もがらりと変わり、戸惑うことは少なくないが、「挑戦する心」は忘れていない。そして今年最大の挑戦は、もちろん、W杯ロシア大会だ。「それまでにどれだけ成長できるか」。静かな口調に、強い決意がにじんだ。(この連載は藤基泰寛が担当しました)

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