技術 スペイン人も驚き 乾貴士

「守備の選手でもめちゃくちゃうまい」。憧れのスペインで日々技術を磨く(3月29日、スペイン・アラサテ市内で)=岡田浩幸撮影

◇FW 乾貴士 29(エイバル)

灰色の岩肌をむき出したスペイン北部、バスク地方の山々に囲まれた練習場は、隣家の鶏の鳴き声が響く。施設は古く簡素だが、ピッチの芝はきれいに生えそろっていた。「最近張り替えたばかりだから。前は雨が降るとボコボコだった」。憧れの国でプレーする充実感が、表情に漂う。

サッカー元日本代表MF中村俊輔(磐田)ら多くの日本人が結果を残せなかったスペインで3季目。ワールドカップ(W杯)ロシア大会の直前シーズンとなる今季、31試合出場4得点と主力を担う。先達が苦しんだ〈壁〉の正体を「最近分かった気がする」と言う。「日本人はうまいけど、同じくらいうまい選手はゴロゴロいる。そのうえで点が取れるとか、守備もできるとか『もう一つのプラス』を持っている」

7歳上の兄と幼い頃からボールを蹴り、テレビで見る、レアル・マドリードやバルセロナなど世界的強豪のスターが披露するテクニックに魅了された。「スペインでやれたら絶対に楽しい」と心に刻まれた。

そのために技術をひたすら磨いた。滋賀・野洲高時代、試合の後も一人で学校に戻ってドリブルを繰り返し、台風でも校庭に出て、暴風の中で正確にボールを扱う練習をした。プロ入りの際はスペインへの留学や遠征を条件として求めた。2011年、ドイツへ渡ったのは「スペインのスカウトは、日本には見に来ない。近い所に行こうと思った」から。全てが布石だった。

「俺はここでは下手な方」と言うが、「守備のミス以上に、パスが少しでもずれると怒られる」という国で、相手の意表をつくアイデアと技術は現地でも一目置かれるほどに磨き上げられた。

17年5月のバルセロナ戦では、ボールに追いつくなり放ったハーフボレーシュートなどで2得点。今月1日のリーグ戦では、背後から相手に激しく当たられながら、後方からのロングパスを右足の甲でピタリ。地元メディアは映像を繰り返し放送し、「信じられない技術」と称賛した。

若手をテストする事情もあって3月、日本代表のベルギー遠征には呼ばれなかった。1分け1敗と低調に終わった試合の映像を自宅で見て「みんなあまり楽しそうじゃないかな」とつぶやいた。「代表は誇りだし、勝たないといけないけれど、楽しくやるのが一番。ちっちゃな子が目指したくなる魅力的なチームじゃないと」。W杯に向けて短期間でチームを変える可能性を持つ一人なのは間違いない。(岡田浩幸)

 

◇いぬい・たかし 滋賀県出身。野洲高2年時に全国選手権で優勝し、卒業後はJ1横浜M、C大阪を経て、2011年夏にドイツ2部のボーフムへ移籍。フランクフルト(独)で3季プレーし、15年夏からエイバル(スペイン)へ移った。1メートル69、59キロ。日本代表25試合出場2得点。

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