[サッカーの惑星]アイスランド編(下)5歳から一流指導

欧州サッカー連盟の指導者資格を持つコーチ(右奥)から指導を受けるレイキャビクの子どもたち

◆選手底上げ 代表躍進

東京都北区ほどの人口約35万人の小国に、代表の候補選手はどれほどいるのか。そんな疑問に答えるアイスランド・サッカー協会のデータがある。

協会登録選手が2万6000人で男子はうち1万7000人、子供を除くと3500人。「完全なプロは約100人。そこから選ばれた選手が2016年欧州選手権8強、ロシア大会でワールドカップ(W杯)初出場を成し遂げた」と協会広報のオーマル・スマウラソン(44)。日本の登録選手が約91万5000人なのを考えると、いかに小規模かが分かる。

限られた人材を効率的に育て上げるシステムの確立は、02年頃に始まった。1、2部リーグの加盟クラブで育成年代を指導するコーチに、欧州サッカー連盟(UEFA)の指導者資格を取得することが義務づけられた。当時ゼロだったA級(プロの指導資格)、B級ライセンスの取得者は、延べ約900人に。協会技術委員長のアルナル・グンナルソン(42)は「ボランティアで親が教えている国もある中で、我々の指導は5、6歳から専門的だ」という。

登録選手約30人に対して有資格コーチが1人いる計算で、効果の表れも早かった。現在の代表を支える20代は恩恵にあずかった世代で、代表監督のヘイミル・ハルグリムソン(50)は「選手層が厚くなったとは言えないが、質は確実に向上している」とうなずく。12年に131位だった世界ランキングは今年2月、18位(現在は22位)に上がった。

小国ならではの強みは、まだある。「親戚や友人をたどれば、誰もがどこかでつながっている。いわば、大きな一族のような結束力が、団体競技では特に生きる」。アイスランド大で准教授(社会学)を務めるビーザル・ハルドルソン(47)は指摘する。

08年北京五輪で銀メダルを獲得した男子ハンドボールのデータがそれを裏付ける。決勝までの全試合の合計で、得点などをチーム全員で喜び合った回数は299回と、対戦相手の計135回の2倍以上に達した。団結の強さを示す数値に「突出した選手がいなくても、みんなで補い合えるのがこの国の文化」と同准教授。サッカーでも欧州選手権の試合後に演じた、選手とサポーターが向かい合い手拍子を少しずつ早めて盛り上がっていく「バイキング・クラップ」は、躍進を支えた一体感の象徴として世界に紹介された。

かつては「欧州遠征なんて旅行気分。試合前日に酒を飲む人もいた」と元代表DFピエトル・マルティンソン(44)は振り返るが、11~16年に指揮したスウェーデン出身の名将ラーシュ・ラーゲルベック(69)が体質をたたき直した。その下でコーチ、共同監督として学んだ現監督のハルグリムソンは言う。「長いこと我々は他国から過小評価されてきたが、もう終わりだ。強豪にも勝てると証明した。W杯はゴールではない。成功を求める旅に終わりはない」(敬称略)

◆歴史と経済

9世紀頃にノルウェーから移り住んだバイキングが源流とされ、ノルウェーやデンマークによる統治を経て1918年に独立、44年に共和国となった。オーロラや氷河の鑑賞など観光業が特に盛んで、水産業なども主要産業。失業率は2.6%(今年3月)と低く、サッカー指導者の多くが別に本業を持つ。代表監督のハルグリムソンは歯科医でもあり、「気分転換と技術を保つため、機会があれば(歯科医として)働いている」という。

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