ワールドカップ狂騒曲(1)ジダン頭突き/マラドーナ空気銃乱射

語り継がれる勝負やゴールは数え切れない。トラブルや判定論争も、たびたび世を騒がせてきた。サッカーの祭典・ワールドカップ(W杯)の歴史を、エピソードで振り返る。(メディア局編集部・込山駿)

英雄ジダンの頭突き(2006年ドイツ大会決勝)

【写真】決勝戦で反則を犯し、レッドカードを出されたフランスのジダン(06年7月9日、AP)

PK戦の末にイタリアに敗れた2006年7月9日のW杯ドイツ大会決勝で、フランスの主将ジダンは暴行に走った。相手選手に頭突きをお見舞い。1998年大会で母国を開催国優勝に導き、世界最優秀選手にも3度選ばれた当時34歳のスーパースターは、すでにこの大会限りで現役を引退すると表明済みだった。ラストマッチでキャリアを汚し、世界中のファンを失望させた。

1―1で迎えた延長後半、ジダンは相手ゴール前に迫った。しかし、イタリアのDFマテラッツィのマークもあって、ボールが来ない。いったん自陣に向けて歩き出したが、突然にきびすを返した。マテラッツィに詰め寄ると、胸にいきなり頭突きを食らわせた。芝の上に倒れ込むマテラッツィ。審判にレッドカードを突きつけられたジダンは涙を浮かべ、ピッチ脇に置かれた優勝トロフィーの横を通り過ぎ、ロッカールームに消えていった。

ジダンは後日、テレビ会見で経緯を説明した。「マテラッツィがユニホームを引っ張ったので『欲しければ試合後にあげる』と言った。それに対して、彼は私の母と姉を深く傷つける言葉を3回繰り返した」。一方、マテラッツィは地元の新聞に「差別的な発言はしていない」と語り、その点は調査した国際サッカー連盟(FIFA)からも認定された。一体、どんな発言だったのか。ジダンを「テロリスト」と、ジダンの姉を「売春婦」と呼んでいたとする読唇術の専門家の見解が伝えられている。

■粗暴な傾向 監督経験で改まったか

【写真2】優勝トロフィーの脇を通り、うなだれて退場するジダン(吉岡毅撮影)

FIFAは両選手に罰金と出場停止処分を下し、引退したジダンの出場停止は3日間の社会貢献活動に変更された。ジダンは98年大会でもサウジアラビア戦で相手選手を踏みつけるラフプレーに走り、2試合出場停止となった。2000年にも欧州での公式戦で相手選手に頭突きをして出場停止処分を受けている。華麗なるプレーの陰で、現役時代は最後まで、粗暴な傾向が改まらなかったことを忘れてはならない。

ドイツ大会後は「多くの子どもたちが(頭突きを)見ていた。謝りたい」と語っていた。強豪レアル・マドリード(スペイン)の監督として大成功を収めた指導者生活では、自制心が身についただろうか。

マラドーナが空気銃乱射(94年米国大会)

こんなにも波乱万丈のサッカー人生は、マラドーナにしか歩めない。

W杯米国大会を控えた1994年2月2日、当時は33歳だった。ブエノスアイレス郊外の自宅を取り巻く報道陣に向けて空気銃を乱射し、記者4人らに軽傷を負わせた。この事件で2002年、アルゼンチンの最高裁から傷害罪で禁錮2年の有罪判決(執行猶予付き)を言い渡されている。

発生当時、所属チームとの契約解除問題の取材に訪れた報道陣は、家の中をのぞいたり、庭で遊ぶ娘の写真を撮り続けるなどしていたとされる。腹が立ったことだろう。それにしても――。「ここから消えないと、本物の弾をぶち込むぞ」と叫んで空気銃を構えるマラドーナの姿を母国のテレビが撮影した映像は、世界中のファンにショックを与えた。

15歳で天才と呼ばれ、1986年大会でW杯優勝の立役者となり、90年大会も準優勝に大きく貢献した。だが、そこからはトラブルの連続。91年のコカイン使用による逮捕、出場停止を経て、空気銃乱射事件の前日には所属クラブから契約解除を言い渡されていた。

【写真】乱射事件の16年後、アルゼンチンの監督としてW杯に舞い戻ったマラドーナ(中央)=野本裕人撮影

■ドーピング違反で終幕 監督でW杯に復活

事件発覚当初は、再起困難かと思われたが、あっさり代表復帰を果たすと、W杯米国大会のピッチに立つ。ギリシャとの初戦で全盛期をほうふつとさせる鮮やかなゴールを決め、ナイジェリアとの2戦目もプレー。しかし、ナイジェリア戦後のドーピング検査で、エフェドリンなど5種類に及ぶ禁止薬物の使用が発覚し、またもやファンを失望させた。FIFAから出場停止処分を受け、選手としてはさすがにこれが最後のW杯となった。

2010年南アフリカ大会で、母国の監督としてW杯に舞い戻った。後継者と呼ばれるスター選手のメッシを擁する有力チームを率いたが、準々決勝でドイツに0―4と粉砕される。この大会でも、ピッチ脇で喜怒哀楽をむき出しにする姿と、自由奔放な発言は脚光を浴びた。何度失望させても、ファンに愛され、輝き続ける存在。それがマラドーナだ。

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