ワールドカップ狂騒曲(3)エスコバルの悲劇/FIFA汚職

語り継がれる勝負やゴールは数え切れない。トラブルや判定論争も、たびたび世を騒がせてきた。サッカーの祭典・ワールドカップ(W杯)の歴史を、エピソードで振り返る。(読売新聞メディア局編集部・込山駿)

エスコバルの悲劇(1994年米国大会)

米国戦でのオウンゴール後、座り込むエスコバル。この後、「自殺点」という言葉は改められた(1994年6月、今利幸撮影)

1994年7月2日。W杯米国大会で前評判の高かったコロンビアがグループリーグ敗退を喫して間もなく、銃殺事件が起きた。代表DFのアンドレス・エスコバル(当時27歳)が、国内第2の都市メデジンの街中で暴漢の凶弾に倒れ、命を落とした。

犯人は逮捕されたが、動機は未解明のままだ。コロンビアは当時、殺人発生率が高くてテロや誘拐も多発するなど治安の悪さが深刻で、メデジンは世界最大といわれた麻薬組織の本拠地でもあった。敗れた米国戦で痛恨のオウンゴールを記録したのがエスコバルだったため、サッカー賭博に絡んだ犯罪組織の関与などもとりざたされた。2014年、読売新聞社の取材に応じた被害者の兄サンティアゴ・エスコバル氏は「アンドレスは抵抗さえしなかった。一瞬で殺された」と、癒えない悲しみを語っている。

米国大会のコロンビアは、MFバルデラマ、FWアスプリージャらスター選手ぞろいだったが、事件後は勢いを失い、W杯出場権も2010年まで3大会続けて逃した。治安が少しずつ改善するとともに、サッカーも復活傾向にある。14年ブラジル大会では8強入りし、今年のロシア大会でも日本と同じグループリーグH組から上位を狙う。

■終わらぬ内戦 最大の反省材料

コロンビア・メデジンの総合スポーツセンターにはエスコバルの銅像がある(2014年1月、畔川吉永撮影)

ただ、国情を暗くしてきた半世紀に及ぶ内戦は、まだ完全に終わったとはいえない状況。エスコバル銃殺事件は、この国とサッカー界にとって消せない汚点で、最大の反省材料でもあり続けている。

FIFA巨額汚職(2015年)

FIFAの倫理委員会から処分を科せられ、スイス・チューリヒ市内で記者会見したブラッター会長(2015年12月21日、風間徹也撮影)

国際サッカー連盟(FIFA)の巨額汚職事件に、米国司法当局が捜査のメスを入れたのは、2015年のことだった。複数のFIFA副会長、ホンジュラスの元大統領、グアテマラの憲法裁判所裁判官らが、組織的不正の罪などで次々と起訴され、賄賂など不正資金の総額は2億ドル、当時のレートで約245億円とされた。ゼップ・ブラッター氏が会長退陣に追い込まれ、FIFA幹部の顔ぶれは一新された。

当局が発表した訴追資料などによると、被告らは20年以上にわたり、国際大会の放映権やマーケティング権を獲得する見返りとして、スポーツマーケティング会社などから繰り返し、多額の賄賂を受け取っていた。2010年W杯の招致活動では、開催地に決まった南アフリカの政府関係者から当時のFIFA副会長へ、FIFA理事会の投票で南アを支持する見返りに賄賂が渡っていたとされた。

米司法長官は記者会見で「汚職の規模はとてつもない」と指摘した。FIFAは1974年から40年以上続いたジョアン・アベランジェ(2016年死去)―ブラッター両会長の体制下で、放送権料やスポンサー料で得た資金を加盟協会に分配して競技普及を進めたが、腐敗もまん延したとされる。

■新体制でも大会は拡大

FIFA会長を引き継いだインファンティノ氏(左、2017年7月の記者会見で)=青柳庸介撮影

ブラッター氏の後任会長には2016年、ジャンニ・インファンティノ氏が就任した。ただ、体質改善などを掲げる現体制下でも、FIFAの収入の7割以上を占めるとされるW杯収入は拡大の一途だ。出場チーム数が現在の32から48に増える2026年大会(開催地未定)の収入は18年ロシア大会の2割増になると予想されている。

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